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第15話…脱走(『新選組血風録』)





(第15話)

▼土方の解説

土 方「元治元年十二月,かねて江戸深川佐賀町に
    北辰一刀流の道場を開いていた剣客伊東甲子太郎が,
    新たに新選組に参加した。
    数多くの門弟同志が伊東に従って入隊した。
    いずれも文武両道に長じた一流の剣士である。
    近藤は新選組参謀の役職をもって伊東を遇した」

▼伊東の大流派としての顔は広く,各藩への挨拶回りで多忙な様子であることを,沖田が土方に話している。沖田が思うに,何故,大物の伊東が,今頃新選組に入ったのか疑問だという。

屈託なく笑っている沖田。
土方の表情に内心の声が流れる。

土方の声「沖田は利口な男だ。いや,不思議な男ともいえる。
     この男には,およそ欲というものがない。
     まるで生まれたまま大人になったようなところがある。
     丁度,少しの邪心もない子供が,
     本能的に物を判断するように,
     沖田のカンは,恐ろしいほどよく当たった。
     何故,伊東甲子太郎は新選組に入隊したか…
     沖田の目には既にそれは,
     異様なこととしてうつったのである」

▼伊東は,早速,北辰一刀流同門のよしみで,新選組総長の山南敬助と,八番隊組長の藤堂平助を会食に招いた。今後,天下を動かすのは剣ではなく,政治だと持論を述べる伊東。会談の帰途,藤堂や山南は,これまでの近藤や土方の方針とは随分異なる伊東の方針に戸惑いを隠せない。今後どうすればいいのか,藤堂は山南に問いかけるが,山南は疲れたと言う。

▼近藤は土方に,山南が最近,元気がなく,具合でも悪いのかと尋ねる。

土 方 「気持ちの病人だ,山南さんを病気にしたのは,
     たぶん伊東甲子太郎だろう」
近 藤 「歳さん,どうも君は,伊東君が気に喰わんようだな」
土 方 「気にいらんね,第一,何を考えているのか判らん」
近 藤 「そう言うな,あの人はただの剣客ではない,
     すぐれた学者だ。新選組も飛躍的に大きくなっている,
     ああいう論客もおっていい」
土 方 「近藤さん,あんたは無論それでいい。
     だが,伊東甲子太郎の弁舌で
     新選組本来の務めに身が入らなくなるような
     病人が出て来ては困る,私はそれを言っているのだ」

▼沖田は,医者からの帰り道,手桶を持って女中と出てきた医者の娘お悠と共に,清水の舞台の近くにある「音羽の滝」へ向かった。八の日には,音羽の滝の水を汲んで,お茶をたてるという。お悠は石垣の上から流れる細いスジ状の水を,ひしゃくで桶に汲む。沖田は,その風情を見ながら,倒幕・佐幕の只中にいる自分とは,あまりにも遠い生き方であることを痛感する。近くの茶屋にお悠と寄った沖田は,八の日に音羽の水を汲みに来ることを約束する。その様子を,先に茶屋へ居合わせた山南が聞いていた。その後,お悠と分かれて歩み出した沖田に,山南が声をかけ,一緒に屯所へ戻った。

▼山南は後日,沖田が通う医者の玄節のもとを訪れ,その病状を聞く。
難しい病であることを聞いた山南は,丁度,お茶を運んできたお悠に,
沖田のことを「よろしく頼みます」と,繰り返し申し入れる。

▼その晩,夜間巡察前の沖田に声をかける山南。
医者で病状を聞いてきたという山南は,無理をしないよう忠告するが,
沖田は,自分の病のことについて判っているが,どうにもならないと言い,出動する。その直後,山南は,若い隊士に「近藤と土方は留守なのか」と聞く。

土方の声 「山南敬助が,その日,近藤と私に何を話そうとしたか,
      それは永遠に判らない。新選組総長として
      隊の運営に関することか,あるいは,古い仲間としての
      沖田総司の身体のことについて言おうとしたのか…」

山南が廊下を歩き出すと,伊東がいた。伊東は,山南に何かの協力を要請しており,後日,打ち合わせをすると告げて去る。山南の後ろ姿に土方の解説が流れる。




土方の声 「伊東甲子太郎が,山南敬助に,
      どんな協力を求めようとしたか,
      それも,永遠に判らない。何故ならば…
      新選組総長山南敬助は,その夜限り新選組を捨てた。
      山南敬助は,一通の,簡単な書き置きを残して,
      姿を消した。その波紋は新選組の隊中に,
      大きく拡がっていった…」

▼近藤は土方の前で狼狽し,どうすべきか困惑した。
近藤としては,山南に刃を向けるようなことはしたくないというが,
放っておけばどうなるか…,

土 方 「新選組そのものを,あんたが否定したことになる。
     新選組を捨てた山南敬助を,あんたが認めたことになる」
近 藤 「歳さん,いつもとは場合が違う。
     山南君は,試衛館以来の同志だ,
     生きるも死ぬも共に一緒のはずの同志だ。
     すぐみんなを集める。
     江戸以来のみんなを集めてくれ,みんなの意見を聞こう」
土 方 「それもいいだろう」
近 藤 「それと伊東君も呼んでくれ」
土 方 「伊東さんは,試衛館の仲間ではないはずだが」
近 藤 「いや,参謀として,冷静な立場にいるはずだ,
     その意見も聞こう」


▼近藤は,部屋に揃った江戸以来の同志のほか伊東を交え,時計回りの席順に意見を聞く。




近 藤 「まず,井上君から,山南君をどうすべきか,
     意見を聞かせてもらいたい」
井 上 「(ひどく慌てる)わ,私は一番先に申し上げるのですか」
近 藤 「うむ,思った通り,忌憚(キタン=遠慮)のない意見を
     述べてもらう」
井 上 「(深呼吸をしてから)では申し上げます。
     私は…思っとるのです。つまり…私は,
     周斎先生以来の試衛館近藤道場の内弟子です。
     近藤先生の命令には,水火を辞さん覚悟でおります,
     私は,撃剣の筋も悪い,
     先生には御迷惑をかけてばかりいます。
     しかし,私は,近藤門下であることに誇りを持っています。
     私は近藤先生が死ねとおっしゃれば,今すぐでも死ねます,
     私は,学問もない,しかし私は…」




近 藤 「井上君,今聞きたいのは,今回の山南君の件について,
     君はどう処置するかということだ」
井 上 「はァ…私は…近藤先生のおっしゃる通りにすべきと
     思っとります」
近 藤 「いや,井上君,君の意見を聞きたいのだが…(苦笑い)
     いや,もう結構だ。原田君,君はどう思う」
原 田 「(珍しく困惑して)はァ…私は…私は思います」
近 藤 「うむ…」
原 田 「アタシ(私)だったらですね,
     山南さんみたいなやり方はせんです。
     考えられんですね。同じ釜の飯を喰った仲じゃないですか。
     アタシだったらですね,黙っていなくなるなんてことは
     性に合わんですよ,アタシだったらですね…」




近 藤 「原田君,君の場合を聞いているのではない。
     今回の山南君の行動に対する処置を聞いているのだ」
原 田 「はァ…つまり,アタシだったらですね…」
近 藤 「いや,君の場合ではないのだ…まァいい,
     次,斎藤君,君の意見を聞こう」
斎 藤 「はァ…山南さんは,何といっても,局の大幹部ですし,
     江戸以来,近藤先生の相談役です。
     私は,もう一度,近藤先生と山南さんが,
     話し合う必要があると思います。
     そうすれば,山南さんだって,
     また,別な方法をとるでしょう」




近 藤 「うむ…そう出来ればそれに越したことはないが,
     今となって,それが出来るかどうかだな,
     結構だ。次に,伊東君の意見をうかがおう」

一同,伊東に注目する。目をそむけているのは土方だけ。

伊 東 「私は,率直に申せば,山南君の今回の行動は,
     武士として最も潔い正々堂々たる行為と思います。
     何故ならば山南君は,逃亡したのではない,
     感ずるところあって新選組を離れる,
     同志諸君の健闘を祈ると書き置いて去った。
     断じて,逃走ではない。しかも,倒幕派に走ったのではない,
     自ら,身をひいただけだ。
     私は,あの人の去って行ったあとを聞いて,
     頭の下がる思いをした。身辺の整理,事務的今後の処置,
     全く,整然として潔白の一語に尽きる。
     立つ鳥後を濁さず,まことに,武士はそうありたい。
     山南君は,新選組創立の中心人物であった。
     今,事志と違い,静かに身をひいた。
     何らの,栄誉功名を求めることなく,
     淡々として去っていった…。
     私は,ただ,同君の今後の健闘と自愛を祈る気持ちで一杯だ,
     それが,同志を送るせめてもの志と思っています。
     ひとえに,近藤先生の寛大なる処置をお願いしたい」




近 藤 「よく判った。次,藤堂君の意見を聞こう」
藤 堂 「私は,伊東先生の御意見に賛成します」




近 藤 「そうか,次は,永倉君の意見を聞こう」
永 倉 「ハァ…私は…」
近 藤 「うむ,君は」
永 倉 「私は,沖田君の意見と同じです」




まだ意見を言っていない沖田が,ギョッとして永倉を見る。
が,永倉は平気でそっぽを向いている。




近 藤 「そうか,では,その沖田の考えを聞こう」
沖 田 「永倉さんが,まだ何も言わない私の意見と同じだそうだから
     私もその手を使いますがね,
     土方さんは,どうお考えです?」




土方はジロリと沖田を見る。

沖 田 「土方さん,どうお考えです」
土 方 「俺の意見など,ない」
沖 田 「どうしてです」
土 方 「初めから,決まっている…
     局を脱することを許さず。そう決まっている」




一同,目を伏せる。
伊東は,規則だけで全てを割りきってしまうのは冷酷すぎると反論し,
山南の場合は別だと主張する。
沖田から,「もし近藤先生が山南さんと同じことをしたらどうするか」と問われた土方は,

土 方 「近藤さんでも同じだ。局中法度に触れるときは,
     局長も平隊士も区別はない」
近 藤 「ほう,私を斬るかね」
土 方 「斬る」
近 藤 「本当に斬るか」
土 方 「本当に斬る…しかし,その時は…」
沖 田 「判りましたよ,土方さんの一生も終わる時ですね」

近藤は,山南敬助が脱走したものと決断し,土方に処置するよう命令する。土方は,沖田にだけ山南を連れ戻すよう指示した。

▼山南は,大津の宿に本名を隠さず宿泊していた。
沖田が迎えに来ると,「終わったな」と山南は呟く。
綺麗な湖と雲と波の色を眺めていたという山南。
死を悟ったかのような言葉を聞き,うなだれる沖田。
その日が「八の日」だったことを思い出した山南は,
沖田にお悠との約束について尋ねるが,沖田は,忘れていたと答える。
自分の命も左程長くないような気がすると言う沖田は,
闘うしか将来がない…と呟く。
山南は,「闘う前に自信を失った…ただ,それだけのことだ」と言い,
沖田と共に屯所へ戻った。

▼慶応元年二月二十一日,新選組総長山南敬助,脱走の故をもって,
沖田総司の介錯に依り,切腹。


(了)
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