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第22話…海鳴りが呼ぶ(『新選組血風録』)





(第22話)

▼慶応四年一月九日,幕軍は大阪へ総退却を決定した。

▼土方の解説
幕府は,大阪において決戦を試みることなく,
賊軍の汚名を着たまま江戸に敗走を開始した。
新選組が,鳥羽伏見に薩長連合軍と戦って退いてより,
僅か四日後のことである。

▼新選組は,富士山丸で江戸へ向かうことになった。

▼土方の解説
新選組仮陣営大阪代官所は,まだ混乱の中にあった。
次々に辿りつく負傷隊士の収容,新選組再建への準備,
その間中に,大阪撤退の報は流れた。

▼鳥羽伏見の戦いで重傷を負った山崎烝のもとに,
許嫁(イイナズケ)の久江が訪れ,昼夜を問わず,
熱心に付き添い,看護をしていた。

▼一方,大阪代官所には,労咳の病状が悪化した沖田が床に伏していた。
富士山丸で江戸へ退くことを斎藤から聞いた沖田は,
「厭だなァ」とこぼす。
大阪から江戸まで四日ほどかかるらしい,
昔から舟は嫌いだと言う沖田。
斎藤は,舟の中でも傍にいてやると言って,沖田を励ます。
「我慢するか」そう言った沖田は,
それとなく,別室にいる山崎のことを気にかける。




▼山崎の容態は,小銃二発のうち一発が身体の中に残って化膿しており,
その鉛毒に全身が侵され,余命いくばくもない状態であった。
山崎の実家が大阪だと聞いた医者の松本良順は,
せめて最期は,親族や許嫁と,実家で過ごすよう近藤に勧める。
土方は,山崎の兄と許嫁の久江を呼んで,
山崎を実家へ移すことを伝える。
近藤としても,山崎にその旨伝えるが,

山 崎 「私を,この大阪に置いて行くと言われるんですか」
近 藤 「置いて行くのではない,君は重傷を負っている。
     今,無理して舟に乗ることはない。兄さんが迎えに来ている。
     ひとまず実家に落ち着いて,じっくり養生してくれ。
     新選組も,江戸で再編成する,安心して大阪にいてくれ」
山 崎 「局長,お言葉ですが,私は大阪には残りません。
     私も,局長やみんなと一緒に,富士山丸で江戸へ行きます。
近 藤 「いやあ,それは無理だ」
山 崎 「局長,無理だからこそ,私は行くんです。
     私は,自分の体がどうなっているかくらい
     わかっているつもりです。 
     もし,もとの身体に治れるものなら,
     喜んで大阪に留まります。
     喜んで家へ帰りますよ。
     でも,大阪に残っていても,私の体は元へは戻らない」
近 藤 「山崎君,そんなことはない,大阪には良い医者もいる。
     それに,手厚く看護をしてくれる人達が待っている。
     第一,君はまだ若い,絶対治る,
     いや,治ってもらわねば困る」
山 崎 「近藤先生,そう仰って下さるお気持ちは,嬉しく思います。
     でも私は,どうせ死ぬなら,新選組の隊士として,
     誠の旗のもとで,死んで行きたいと思います」
近 藤 「…」
山 崎 「私はもう,足手まといに過ぎません。
     富士山丸で連れて行けと
     お願いできる筋合いではありません。
     富士山丸に乗れないときは,
     ここで先生や皆さんを見送ってから,
     自決するつもりでおります」
近 藤 「山崎君,わかった,君を連れて行く,
     私と一緒に富士山丸に乗る。そして,江戸へ行こう」
山 崎 「良かった…連れて行って下さいますね,
     良かったァ,安心しました,ありがとうございます」








退席して近藤が障子を開けると,そこに土方がいた。
山崎と近藤の会話を聞いていた土方は,
山崎の親族にそれを伝えることにする。

▼土方から山崎の意向を聞く兄と久江。
ゆっくりお別れするよう言う土方。

▼土方の解説
その日の夜より,早くも幕軍の一部は撤退を始めた。
戦死者遺族への通達,生存隊士への軍資金の配布,
身辺の整理,家族への連絡,
新選組仮陣営もまた,多忙な一夜を迎えていた。

▼その晩,新選組の書類記録の多くが焼却された。
規模の小さい富士山丸に持ち運ぶことができないからだ。
寝床に就いた沖田と斎藤は,焼却の物音に気が付く。

沖 田 「新選組の記録が,みんな灰になっていくんですね」
斎 藤 「…」

▼既に山崎は,薬も飲めない最悪の状態となっていた。
山崎は兄に,久江との婚約を解消したほうがいいのではないかと話す。
「あんないい人を,不幸にはしたくない」と言う。
その頃,山崎の容体を医者に尋ねた久江は,
もはや息を引き取るのを待つばかりだと告げられる。

▼乗船間際,こん睡状態に近い山崎の部屋に,
近藤,土方,山崎の兄,久江が集まる。
そこで久江は,意を決したように,
山崎の妻にさせて欲しいと申し出る。

久 江 「縁あって山崎様と婚約を取り交わした者でございます。
     その山崎様が,今,武士の最期を飾ろうとして,
     富士山丸に行かれるのです。
     もう,お目にかかれることはないでしょう。
     なら,今のうちに,私をお約束通り,
     山崎烝の妻として,その門出をお送りしたいと存じます。
     今のうちです,ここにはお兄さまがいらっしゃいます,
     新選組の局長様も,副長様もいらっしゃいます,
     どうぞ,祝言をお認め下さいませ」

▼久江の言葉を聞き入れた近藤は,隊士を集め,形ばかりの祝言を行う。
三三九度の乾杯を終えた時,新選組の乗船を促される役人の声が聞こえる。山崎は,妻久江の見送る中,運ばれて行った。

▼土方の解説
同日夜,新選組は,富士山丸に乗船した。

▼舟の甲板で、土方と原田は,山崎と久江のことを話す。

原 田 「私は思いましたよ,人間の幸せなんてものは,
     他人のわからねえところにあるもんだとね。
     土方さん,おかしなこと言うようだが,
     あんた,人間の魂ってもの,信じますか」
土 方 「どういう意味かな」
原 田 「いえね,山崎君はずっと意識不明のままで,
     あの人が自分の嫁さんになったことも知らねえで,
     だが,もし死んで,その魂がそれを知ったら,
     それで山崎君は日本一の幸せ者だと思うんですがね」

▼こん睡状態の山崎は,苦しそうにもがき,突然眼を開けた。
狭い船室に永倉,原田,土方,近藤が詰めかけて見守る。
「出撃だ! 新選組の出撃だ!」叫んだあと,山崎は息絶えた。

近 藤 「山崎君は,やはり,あの人の夫として,出撃をしていった」
原 田 「山崎君は,いい嫁さんをもって死ねた」
土 方 「近藤さん,山崎君は,新選組幹部として,
     軍艦の上で戦死をした。
     それにふさわしい葬儀をしてやりたい」

▼土方の解説
新選組監察山崎烝,
慶応四年一月十二日,軍艦富士山丸において戦病死す。
同日,紀州沖にて海軍葬により海底に沈める。
この日,海鳴り特に激しく聞こえる。
その後,伝え聞くところによれば,
山崎烝の妻久江は,夫の後を追い,自決したという。
その日また,海鳴り特に激し。

(了)
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