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第25話…流山(『新選組血風録』)





(第25話)

▼土方の姉・おのぶの嫁ぎ先である佐藤彦五郎邸へ,官軍の捜査が及んだ。彦五郎と妻子は,八王子へ逮捕・連行されることになったが,丁度,用事に出ていた女中のおさきは,佐藤家へ戻ったとき,官軍の様子を陰から見て,走り去った。

▼土方の解説
女中・おさきは,巧みに脱出した。
しかし,おさきは逃げたのではなかった。
その翌朝,下総流山の我々の屯営に走り着いたおさきは,
佐藤家逮捕の急を告げた。

▼官軍が佐藤家の者達に無礼な拷問をして,流山のことを探り出しはしないかと,近藤は気にかける。「官軍も侍だということを,信用しているほかはない」と言う土方も,なす術はない。そこへ斎藤一が来て,土方の実家に等しい佐藤家の者達の身を案じる。佐藤家は,資金繰り等,創立当時の新選組の大恩人でもあった。土方の姉・おのぶは,彼にとって,幼い頃死別した母親の,代わりのような存在であることを,近藤はよく知っていた。子供の頃から乱暴者だった歳三も,おのぶの言うことだけは,いつもよく聞いたという。斎藤は,八王子に本営を置く官軍の様子を見に行くと言うが,土方は,斎藤がノコノコ出て行けば,新選組の生き残りであることを官軍に知らせに行くようなものだと言って反対する。そして斎藤には,近藤と共に身元を隠して潜伏していることを官軍に知られないよう,隊士達に徹底して内密にすることを指示した。

▼土方の解説
もと新選組局長近藤勇の名が官軍の耳に入れば,
彼らは復讐の鬼と化して流山に襲いかかって来るのは,
火を見るより明らかである。
近藤は既に,甲陽鎮撫隊の時から,
幕臣大久保大和と,その名を改めていた。
斎藤は,隊士らの前で念を押す。

斎 藤 「いいか,我々の隊長は,幕府直参の大久保大和,
     副隊長は同じく幕臣の内藤隼人なのだ。
     いいか,口が裂けても,
     近藤とか土方とかいう名を表に出すな。
     全隊士に徹底させておくのだ。
     官軍は我々を単に治安維持の部隊と見ている。
     その限りにおいては,官軍の攻撃を受ける恐れはない。
     江戸の彰義隊もそうだ。
     江戸市中の治安を受け持っているからこそ,
     官軍の真っ只中にあって,なお,存在できるわけだ」 

▼土方の解説
斎藤一の言うとおり,
我々は流山で集めたこの郷士や農家の若者達を,
今すぐ戦闘に巻き込むつもりはなかった。
彼らの多くは,刀の持ち方一つ知らないのだ。
ここで訓練し,鍛え上げ,その中の有志の者だけを選んで,
会津へ連れて行こうとしていたのである。
そしてその時こそ,新しい新選組がもう一度世に現れる時なのである。

▼若い世話役当番隊士の原 市太郎が,敵状を偵察する斥候(セッコウ)を自ら申し出る。父親と酒粕の行商をやっていたという原は,日野・八王子方面について詳しいという。

▼土方の解説
一ヵ月前では,刀の持ち方も知らない行商人の倅・原 市太郎は,
思いがけぬ大胆さと慎重さを持っていた。
彼は,官軍の本営八王子に潜入した。
そして佐藤彦五郎とその妻,その子供達が,
本営に連行されていることを確かめ,
更に,官軍の参謀が,土佐藩・板垣退助であり,
副参謀は,京都陸援隊出身の香川敬三であることを調べ上げた。

▼香川は,おのぶとまだ幼い息子に土方の行方を尋ねる。
口を割らないおのぶだが,背中を刀の鞘で叩かれるのを見た息子は,居場所を明かす。

▼土方は,佐藤家の女中おさきを,近藤の妻・つねのもとへ送り出し,
安否を確認させる。

▼土方の解説
江戸郊外中野村に潜む近藤の妻のもとへ,
おさきが出発した後,
八王子を探索していた原市太郎が帰営した。
原によれば,八王子の官軍の大部分は,
江戸に移動を開始してるが,
参謀の板垣と香川はまだ残っているとのこと。

▼香川が黙って引き込む男ではないと知っている土方は,更に板橋へ斥候を送る。

▼その頃,香川は,大久保大和こそ近藤勇であると板垣に知らせる。
京都の仇が討てると喜んだ香川は,土方らを皆殺しにしようと,
討伐部隊として大砲隊を繰り出し,流山を包囲させる。




▼近藤はひとり,新選組結成時から現在までの時勢の変化について振り返っていた。

近 藤 「歳さん,あれは,文久三年の春だったなあ。
     京都の壬生で,たった十三人の浪士団を作った。
     あれから五年,短いと言えば短い,
     長いと言えば長い年月だった。
     私は力の限りやってきた,
     いや,私の力以上のこともやってきた。
     しかし,もう世の中は、
     私の力ではどうにもならないように
     変わってしまったように思うのだが…。
     京都で集めた,あの頃の新選組隊士は,
     動乱に臨んで,剣一筋で,
     己の運命を切り開こうという強者達だった。
     しかし,今,私のもとに集まって来ている
     二百何十人の若者達は,そういう人達ではない。
     歳さん,私は今,しきりに思うことがある。
     それは,一生,功成るために,
     万骨を枯らしてはならないということだ」

▼間もなく拙攻から,官軍が江戸川の西に現れたとの報告が入る,
土方は,若い隊士達と共に,様子を見に行った。
官軍は,川向かいの小高い丘の上に,四斤山砲を配備していた。
土方は,すぐ小銃隊を呼ぶよう隊士に伝令を申し向けるが,
近藤は,隊士の出動命令を出さず,土方にも屯営へ戻るよう指示した。

▼屯営に急ぎ戻った土方は,立ったまま,近藤にどうしたのかと聞く。

近 藤 「どうもせん,歳さん,まあ,座れ」
土 方 「呑気に構えられては困る。敵は四斤山砲を向けている。
     その援護下に江戸川を渡って来るんだ。
     この屯営に集中攻撃を浴びせられては,
     それこそ伏見の二の舞になる。
     小銃隊だけでも河原に散開さすのだ。
     あの荒野に,横に広く散開させれば大砲による被害は少ない。
     そして,敵が川を渡り始めたら,狙い撃ちにするのだ。
     あの川は,歩いては渡れない。
     敵は舟で渡って来るに決まっている。
     狙い撃ちには絶好の時機だ」
近 藤 「歳さん,君は,官軍に手向かうつもりか」
土 方 「なあに,先手を打つだけだ。
     川を渡られては,やりようがない。
     先手を打って,その間に部隊をまとめて流山から脱出する」
近 藤 「脱出できると思っているのか」
土 方 「無論,多少の損害は受けるだろうが,やむを得ん。
     出来るだけ多くを守り抜いて,会津へ連れて行く」
近 藤 「まあ,待て,歳さん。とにかく,私の思う通りにしてくれ」
土 方 「あんたは,何を思っているんだ!(怒鳴る)」




▼と,そのとき官軍大砲の威嚇砲撃の音が,続けざまに聞こえる。
官軍が江戸川を渡り始めたという伝令の知らせが入る。
斎藤と隊士の野村は,近藤が消極的なことに気が付いていた。

土 方 「近藤さん,あんた,いつも人を信じすぎる。
     あんたは正気で,敵と話し合いなどできると思っているのか」
近 藤 「歳さん,しかし我々は少なくとも,
     官軍に手向かう姿勢を示してはならん。
     あくまで,上野の彰義隊と同じように,
     治安維持の集団であることを明らかにしなければならん」
土 方 「その官軍は現に,大砲を撃ち込んできているではないか!」

▼慶応四年(明治元年)四月四日,仮屯営の前に官軍兵がやって来た。
応対に出た斎藤と野村は,官軍の軍使から大久保大和宛てに一通の書状を預かる。それを開いて読む近藤。続いて,土方。傍に斎藤と野村が控える。

土 方 「流山屯営隊長大久保大和は,直ちに単身,
     官軍陣地に出頭すべし。
     然らざる時は,直ちに包囲攻撃す。
     刻限,本日正午,官軍隊長有馬藤太(アリマ トウタ)」
土 方 「斎藤君,野村君,直ちに戦闘配置だ。
     敵の砲撃が始まるまでに,
     全軍を流山の町の外に散開さす!」
近 藤 「待て! 私が隊長として命令する!」
土 方 「!」
近 藤 「全員,直ちに配置を解き,宿舎内にて待機する。
     直ちに下命し給え」

▼斎藤と野村は指示を聞き,顔を見合わせつつ,出て行った。

土 方 「近藤さん,あんた,何をする気だ!」
近 藤 「歳さん,私は,官軍の陣地に出頭する」
土 方 「バカッ!…何を言うんだ,
     向こうは,あんたと話し合いなんかするもんか!」
近 藤 「そうだろう,今更,近藤勇と話し合っても
     仕方あるまいからな」
土 方 「で…では,あんた…」
近 藤 「官軍が,私が近藤勇であることを知っているぐらい,
     私も気付いているよ。
     君の姉さん達が捕まったと聞いた時,
     私は,今日を覚悟していた」
土 方 「近藤さん,なら,余計行くなッ。
     戦は,まだこれからではないか。
     脱出しよう,戦って脱出しよう!」
近 藤 「歳さん,やめよう」
土 方 「駄目だ!」
近 藤 「今,私が出頭を拒否すれば,
     この屯営に集まっている二百何十人の若者達は
     どうなると思う。そして,あんたの姉さんや兄さん達は,
     どんな目に会うと思う」
土 方 「そんなことは,今言う場合ではない!」
近 藤 「いや,歳さん,もうひとつ言うよ。
     私が出頭しなければ,あんた,どうなると思う」
土 方 「お,俺?…俺は,あんたと一緒に死ねばいい」
近 藤 「歳さん,違うよ! 歳さんはまだ戦える」
土 方 「あんただって戦える!」
近 藤 「今,私が戦えば,この流山の町は,地獄図になるだろう。
     まだ,ろくに刀の握り方も知らない若者達の中に,
     四斤山砲や,ミニエー銃の弾が,雨のように降り注ぐんだ」




▼近藤は「いろいろ世話になった」と言って,
土方に誠の旗を広げて見せる。

土 方 「近藤さん,頼む,もう一度…もう一度,考え直してくれ。
     出頭しないで済む,別の手段はないか…」
近 藤 「歳さん,生まれ変わったら,また逢おう…
     そして,また,一緒にやろう」

▼近藤は,土方に誠の旗を託す。




丁度,おさきによって届けられた妻つねの手紙を読み,
手縫いの着物を着る近藤。
別れ際、「俺は送らないよ」とそっぽを向く土方に,
「じゃあ,またな」と言って立ち去る。

▼近藤は,廊下にいた斎藤に,出頭後,隊を解散するよう言い渡す。
外で泣きながら見送る若い隊士達の将来を案じ,
近藤は皆に別れを告げる。




▼近藤は,ふと,沖田はどうしているかな…ふと思い巡らせ,
「総司!」と,空へ叫ぶ。






▼沖田は,その呼び声に反応し,
菊一文字を持って,勢い外へ駆け出す。
「近藤先生が呼んでる!」…
死相の漂う沖田は,辺りを見回して叫ぶ。






▼近藤のあとを,土方は追って走った。
遠くに見えた背に,大声で「近藤!」と叫ぶ土方。






「歳さん…」近藤は少し振り返るが,また前を向き,歩み行く。






(了)
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