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竹槍爆弾『伏龍特攻』…当時の軍上層部と日本政府の稚拙さは、今の安倍政権の思考回路に近い。 


 
水深78メートルの海底に立ち、長さ約5メートルの竹やりを持って
敵の上陸用舟艇を突く。竹やりの先には爆弾。

海の底に立つ若者たちは、
ゴム製スーツに潜水用のヘルメット姿だった――。

実に非人間的な“人間機雷”の訓練が第2次世界大戦末期、
神奈川県の三浦半島周辺で行われていた。
上陸しようとする米軍を、命と引き換えに一撃する作戦だった。

この訓練に参加していた鈴木道郎さん(88
「死なんように、死なんように、実戦に行くまで死なんように」
と考えていたという。

海底に伏した龍を思わせることから「伏龍」と呼ばれた特攻作戦。
関係者の証言をたどった。

Yahoo!ニュース 特集編集部)


15歳で海底の特攻隊員に

鈴木さんはいま、岐阜県多治見市に住んでいる。
自宅を訪ねると、応接間に古いモノクロの集合写真があった。
中央の人物に赤い線が引かれ、「私」と記されている。
特攻隊「伏龍」のメンバーに選ばれる直前、
1945年春の撮影らしい。


鈴木道郎さんは第一岡崎海軍航空隊に所属していた。
分隊240人のうち7人ほどが特攻隊員に選ばれた
(写真:鈴木さん提供)
当時14歳だった鈴木さんは旧日本海軍の飛行予科練習生で、
愛知県岡崎市の航空隊に所属していた。

日本は敗戦直前。
鈴木さんが配属された部隊には飛行機が1機もなく、
少年たちは連日、
塹壕(ざんごう)掘りなどを続けていたという。

鈴木さんの記憶によると、5月のある日、
少年たちは練兵場に集められ、
分隊長が「特攻を志願する兵を募集する。
希望者だけ、あくまでも希望者だけ一歩前に出ろ」と告げた。
「そしたら全員が一歩前に出た。1人も残っとる者はおらへん。
 みんなの頭には、特攻はすごいぞ、とあった。
 私なんか特にそう。(岡崎には飛行機がなかったが)
 すごいな、飛行機に乗れなくても、別の特攻があるんや、
 と思いましたね」
全員が特攻隊に選ばれたわけではない。
視力、聴力、握力、直感判断力、腰の力、循環器の能力、
知能……。
そうした検査を経て、240人から7人くらいが選ばれた。
鈴木さんもその1人で、岡崎にいるとき、
「伏龍」のことを知らされたという。

自宅で語る鈴木道郎さん。左側の写真は若き日の鈴木さん
(撮影:オルタスジャパン)

海の底から長さ5メートルの竹やりで突く
防衛省防衛研究所の所蔵資料によると、
鈴木さんが特攻隊員に選ばれる2カ月ほど前の1945年3月、
水中特攻の計画は始まっている。
5月には、それがさらに具体化し、「伏龍」として姿を現した。
「伏龍」の特徴は、海中で自由に動き回ることができる
 潜水具にある。
当時は海上から空気を送る送気式の潜水具しかなく、
海に潜る者は船とチューブでつながれていた。
これに対し、横須賀海軍工作学校の研究員は
これまでの潜水用スーツを改良し、
戦闘機の酸素ボンベや
二酸化炭素吸収用の清浄缶を組み合わせた。
どういう構造だったのか。
当時の資料などによると、潜水者は腰付近の弁を自分で調整し、
一定量の酸素を背中のボンベからスーツ内全体に供給する。
吐き出された息はチューブで背中の清浄缶へ。
その缶内でカセイソーダが二酸化炭素を取り除き、
清浄な空気として再びスーツに戻される。
こうした仕組みによって、
長時間の潜水が可能になるという触れ込みだった。

簡易潜水器。総重量約80キロ。最大深度15メートル、
潜水可能時間は最長約10時間(写真提供:防衛省防衛研究所)

後ろ姿。酸素タンクとカセイソーダが入った清浄缶を背負う
(写真提供:防衛省防衛研究所)
「伏龍」計画の拠点は神奈川県横須賀市にあった。現在は、
防衛装備庁の艦艇装備研究所などが置かれている。
鈴木さんら各地から選抜された特攻隊員はここで訓練を受けた。
重いスーツを身に着け、砂浜を歩いて海の底を目指したり、
船で沖合から海底に潜ったり。海の底での歩行訓練もあった。
当時の資料によると、最終的には約6500人が集められ、
訓練後、敵の上陸に備えて各地へ散らばる予定だったという。
「伏龍」の開発者は、海軍上層部へ提出した
「簡易潜水器ノ実験研究」(1945年6月)で、
浮上・潜水は容易であり、水中の行動も簡単だ、と誇っている。

「伏龍」の訓練が行われた三浦半島の野比海岸。
重い装備を身に着け、少年たちはここから歩いて海に入った
(撮影:オルタスジャパン)
実際は違ったようだ。
元「伏龍」特攻隊員で、戦後は出版社に勤務した
故・門奈鷹一郎氏の著書『海軍伏龍特攻隊』によると、
カセイソーダの誤飲や海底に体を打ち付けるなどして、
毎日1~2人が死亡していたという。
書籍の中で、
元隊員は「100人から130人が命を落とした」と推測している。
その訓練はどのようなものだったか。爆弾付きの竹やりで
敵舟艇の底を突く作戦とは何だったのか。
鈴木さんの証言を交え、
「伏龍」特攻隊の姿を動画で振り返った。

海底に潜み、敵の船を下から突く  無謀な特攻の記憶


ほとんど事故死 「相方は顔中血だらけで」
三浦半島にあった海軍対潜学校に鈴木さんが入ったのは、
1945年6月だった。「伏龍」の訓練では、
80キロの重装備を身に着け、海に潜る。
最も重視されたのは呼吸法だ。
「鼻から吸って口から吐く。これを100パーセント守る。
(間違えて)鼻から息を吐いたら
(スーツ内の)炭酸ガスが増えるから、
中毒になって動けなくなる。
(弁を開けば)新しい空気がシューッと出るのに、
それができなくなってしまう。
(1回の潜水で)5回間違えたらあの世です」
最初のころ、空気量の調整を間違った。
あわてて呼吸法を忘れ、意識を失ったことがある。
命綱を握っていた相方がそれに気付き、助かったという。

厳しかった訓練について語る鈴木さん
(撮影:オルタスジャパン)
その相方は、別の事故で死亡した。
「(相方の少年は訓練中)命綱が無反応なので
 急いで引き上げて、マスクを取って……。
 そしたら顔中が血だらけで、
 目玉が(飛び出して)あごの方についている。
 それでもまだ息がある。
 手を上げてね、わしの名前を何度も呼んでました。
 けど、手を握ろうとしたらパッと落ちて(息が絶えた)。
 そしたら、
 班長が『鈴木、貴様の責任じゃない。これは事故や』って」

鈴木さんによると、ほかの少年たちは、
背負った清浄缶に関わる事故によく遭遇した。

清浄缶はブリキ製で、
指で押すとベコベコするほどの強度しかない。
缶の内部には、劇薬のカセイソーダが詰まっているのに、
呼吸法を間違えたり、海底の障害物で缶に穴が開いたりすると、
この劇薬は逆流して口に入る。
「(そうなるとカセイソーダは)のどを通っていきますから、
 もだえ苦しむ。海上に引っ張り上げたときはもう遅い。
 みんな真っ青になってね、死んだの」
岡崎航空隊から来た7人ほどの仲間は、鈴木さん以外、
全員が訓練で命を落とした。

船からの潜水訓練。鈴木さんはこのとき、
気を失う事故を起こしたという
(写真:鳥取県の航空自衛隊美保基地提供)

訓練地の地元、横須賀市立野比中学校にある「伏龍」の模型。
門奈鷹一郎氏が寄贈した(撮影:オルタスジャパン)

防衛大の元教官「現場を知らぬ上層部の考え」

神奈川県鎌倉市には、「伏龍」の実戦配備計画があった。
その稲村ガ崎地区には、出撃基地の跡が残っている。
海上から見ると、崖下に横穴の入り口と出口が見える。
特攻隊員はここに潜んで、
海に潜る機会をうかがう手はずだったらしい。
米軍が上陸前に行う艦砲射撃をこの空間で耐え、
やむと同時に海中に入る。
視界の利かない海中を、
爆弾の付いた約5メートルの竹やりを携えて進む。
腕に付けたコンパスと歩数が、配置場所の頼りだったという。
「伏龍」計画は一度も実行されないまま、日本は敗戦を迎えた。
では、仮に実行していたら、どうだったか。
「伏龍」の研究を続けている元防衛大学校准教授の
色川喜美夫さん(67)と鎌倉市の跡地などを歩きながら、
見解を尋ねた。

元防衛大学校准教授の色川喜美夫さん
(撮影:オルタスジャパン)
「今から考えると、その現実性、
 実効性はほとんど期待できなかったと思うんです。
 棒機雷(竹やりの先の爆弾)にどの程度威力があるのか、
 どの程度の被害が敵に出るのか。
 (作戦では、海底に50メートル間隔で
  特攻隊員が待ち伏せする計画だったが)
 隊員にどんな被害があるのか。
 そういうことを、ほとんど検証することなく
 始まってしまった。
 待ち伏せポイントに敵の船が来なければ、
 海底で酸素がなくなるまで待機せざるを得ない。
 成果が期待できない特攻作戦だったと思います」

「ただ、ただ、机上の作戦構想の中で、配置して、
 そこに敵が来て、それを下から攻撃すると。
 それで敵が損傷を受ける、あるいは沈没すると。
 そういう短絡的な成果を期待していた気がします。
 現場を認識していない、上層部の考え方です。
 海軍は最後、若い人たちに依存して、
 実効性をある程度無視した行動として、
 軍令部が考えたのではないか」

色川さんによると、「伏龍」の訓練が始まって間もない
1945年6月、海軍出身の鈴木貫太郎首相が視察に訪れた。
当時は「聖戦完遂」を主張する軍部と
終戦を模索する鈴木首相との間で、
ギリギリのやりとりが行われていた時期。
首相一行は訓練が一望できる丘に陣取った。

神奈川県鎌倉市。稲村ガ崎の断崖には
「伏龍」特攻隊基地の跡が残る。
海側からは横穴の出入り口が見える(撮影:オルタスジャパン)
この訪問は公式記録に残っていないが、
鈴木さんも「偉い人が来た」ことを覚えている。
「(砂浜を歩いて)海に入るとき、みんなうまく入ってね。
 俺もうまく入ろうと思ったら、5分経たんうちに、
 (丘の上の)真ん中に座っている
 背広の人が立ったり座ったり、モゾモゾしだして。
 すっと、その男の人は立って、向こうへタッタッタッと。
 (随行の)佐官連中も後を追うように行くの。
 みんなが死に物狂いで潜って訓練しているときに
 (不思議だなと思った)」

短時間で去ったのは、
作戦として使えないと思ったからではないか。
こんな作戦しかないなら、
いよいよ日本は敗北を受け入れるしかない、
と首相は思ったのではないか――。
鈴木さんはいま、そう感じている。

伏龍」を模した約5メートルの竹竿。
実物は、先端に重さ25キロの爆弾を取り付けていた。
色川さんは
「潮流のある海中で船底にこれを命中させるのは
 難しかっただろう」と言う(撮影:オルタスジャパン)

「死なんように、死なんように……」
敗戦間際の日本は、稚拙で無謀としか思えない特攻作戦を
次々と打ち立てた。
沖縄周辺海域で実行された航空機による特攻作戦だけではない。
艦艇史研究家の田村俊夫さん(78)=長崎県佐世保市=
によると、
改造した魚雷内部に人が入って操縦する人間魚雷「回天」、
艇首に爆薬を詰めた潜水特攻艇「海龍」、
木造の水上特攻艇「震洋」などがあった。

海岸線などで敵を攻撃するための人間地雷や人間爆弾も
計画されていた。
鈴木さんは、敗戦直前の訓練の日々をこう振り返った。
「とにかく、あしたの訓練、
 きょうの訓練を生き抜いていかんことには、
 国のために死ぬこともできない、と。
 その日、その日の命を守ることで精いっぱい。
 死なんように、死なんように、
 実戦に行くまで絶対死なんように。そう考えておりました」


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