風…第29話「若き祈り」
第29話…若き祈り
※この話は医療関係の内容で,医師として理想の姿が描かれている。
人が改心の情を示すまでの,ほんのちょっとしたきっかけの導入に,
それほど無理がないし,今までの『風』のお話の中では,
かなり良質な作品。善悪に関係なく,立場が違えど,
人助けのために懸命になる姿に、人間としての「理想」が描かれている。
(アラスジ)
盗賊の親分・源吉の晒し首を見た子分の半次は,
それが人違いだと気付く。
親分の死に際について賭場仲間に尋ねた半次は,
大庭正吾という若い医者が,源吉の死体を解剖し,
どこかへ葬ったことを知る。
その頃,江戸市中には疱瘡(天然痘)が流行っており,
大庭は仲間の医師と共に予防接種の種となる牛痘※を
密かに入手しようとしていた。
御禁制である牛痘を奪うことで老中水野の密貿易の証拠を掴み,
失脚させようと企む旗本の梅津は,
浪人の天海一味を動かして大庭を拉致する。
新十郎は,隣に住む長吉が病で倒れ,疱瘡の疑いがあったため,
大庭に診てもらおうと,その行方を探す。
かがりは,老中水野より,
密かに牛痘を入手しようとする大庭を守るよう命令され,
新十郎との間で医者の取り合いとなる。
牛痘(ギュウトウ※牛の疱瘡)
種痘に使う=天然痘の予防接種のことで,牛痘を皮膚に植え付ける。
(流れ)
医者の大庭正吾は,同じ医者仲間の中井宗榮と共に,
老中水野のもとを訪れる。
江戸に蔓延する疱瘡の予防に牛痘を用いるよう進言し,
その意向を聞き入れた水野は,
密かにオランダ船から牛痘を手に入れる段取りをしていたが,
御禁制のため,牛痘の入手については,
西洋医学に明るい二人の若い医者に託された。
新十郎は,同じ長屋の隣で暮らしている「しじみ売りの少年」長吉と,
その母おきくと顔馴染みになっていた。
長吉の父親・源吉の墓参りをする母子のもとへ来た新十郎は,
源吉が医者によって葬られたことを伝える。
老中に牛痘接種を勧めた大庭は,漢方医の師匠・青山から破門される。
御典医(ゴテンイ※江戸時代,将軍や大名に仕えた医師=典薬寮【宮内省に属する医療・調薬を担当する部署】に所属する医師)は平侍の脈をとるのも許されず,腑わけ(フワケ※内臓分け=人体解剖)など,もってのほかだった。
将来,大庭を後継ぎにしようと思っていた青山は,
牛痘を使うことに大反対なうえ,大庭が腑分けを行ったことに激怒し,
娘の香絵にも,大庭との婚姻を諦めるよう言い渡す。
香絵は大庭の前で,父に謝るよう泣いて頼むが,
大場は破門を受け入れ,その場を去る。
外に出た大庭の前に現れた半次は,名前を確認し,
「親分の源吉を解剖された恨みだ」と言い,短刀で襲いかかる。
刃物を振り回す半次を止めに入ったのは新十郎だった。
「やめろ!」と一喝された半次だが,「恨みは必ず晴らす」と言って去る。
このとき新十郎は,源吉を葬った医者というのは大庭ではないかと尋ねる。
大庭 「医者の努めは,人の命を救うことです。そのためなら,
たとへ国法を犯したとしても,
あらゆる手段を講じなければならぬ。だからこそ,
疱瘡から人命を守るために必死なんだ。
医者として,この身を犠牲にしててでも」
ひとまず仲間の医者のもとへ行くという大庭を,新十郎は送って行く。
長屋では,長吉が熱を出して寝ており,疱瘡の恐れもあることから,
新十郎は,大庭に診てもらうおうと,急いで呼びに出かける。
大庭の知人の漢方医は,牛痘のことを尋ねてきた。
中井が牛痘を持ち帰ったあと,
大庭は、是非,種痘に協力して貰いたいと頼むが,
オランダ医学など信じられないと拒否される。
話の途中,突然,侵入してきた浪人達に殴られた大庭は,
気絶したまま拉致される。
山中で大場を救いに来たかがりは,浪人の別所一角と闘う。
一角は,かがりが投げた手裏剣で腕を負傷し,その場を去った。
そこへ新十郎も来るが,既に大庭を連れた浪人達は行方をくらましていた。
かがりは水野から大庭を守るよう命じられてきたという。
荒れ寺へ連れてこられた大庭は,その身を縄で縛られる。
浪人の親玉・竜法寺天海は,
牛痘をよこすよう殴る蹴るの拷問をする。
その折、ふと,手傷を負った一角が乱暴に傷を布で覆うのを見た大庭は,
「ちゃんと手当をしないと化膿する」…と、一角に忠告する。
そこへ,「浪人仲間の三人が疱瘡らしい」との知らせが入る。
「早く隔離しなければ」…という大庭の意見を聞いた天海は,
駕籠に乗って医者へ行き,看てもらうべく装う形で
浪人達を外へ連れ出し,山中で三人を斬殺する。
その頃,左近は町中で盗人の半次を追いかけていた。
長屋でお経を唱える町人達に,
そこへ紛れ込んだらしい半次の行方を尋ねる左近だが,
町人の女房は,「疱瘡の疫病神を捕まえてくれ」と言いって拝むばかり。
そこへ「近所の子供の身体に疱瘡が出た」との知らせが入り,
皆一斉に退散する。
その場に一人だけ残っていた半次も,一目散に逃げて行った。
半次のあとを追っかけた左近は,病で寝ている長吉の家に入り込む。
子供に熱があり,疱瘡の疑いがあると聞いた左近は,慌てて退散する。
長屋へ忍び込んでいた半次が物陰からひょっこり顔を出す。
おきくと顔見知りの半次は,
長吉に熱があると聞き,医者を呼びに行った。
間もなく左近のもとへ「殺しがあった」との知らせが下っ引から来た。
早速現場へ行ってみると,斬殺された三人の浪人は疱瘡であることが判明。
左近は,付近にある古寺を調べに行く。
古寺には,縄で柱に縛られた大庭がいた。
その縄が解け,逃げようとする大庭を一角が止める。
一角は,自分の傷を治療しろと命令する。
荒れ寺に着いた左近は,短銃を持っている浪人の天海を見かけ,
かがりが探していた浪人に違いないと目星をつける。
大庭の手当てで楽になった一角は,大庭の医術の腕を褒める。
「荒療治のため,酒は飲むな」と指示する大庭は,
必ず戻って来ることを条件に,その場から出してくれと頼み込む。
好きな女を疱瘡で亡くした過去を持つ一角も,
病の怖さを知っていたが,「仏心は俺にはねえ」と断る。
左近は荒れ寺から天海のあとを追う。
出向いた先が,水野に敵対する侍・梅津の屋敷だと突き止める。
牛痘の一件は,裏で梅津が操っているらしいことがわかる。
話を外から立ち聞きした新十郎は,その場を去る。
梅津の屋敷から戻った天海は,
「牛痘が送られてくる場所がわかった」と一角に告げる。
そのとき大庭は荒れ寺を逃げ出そうとする。
捕まりそうになったところへ新十郎が助けに来る。
かがりが来て、逃げる大庭を水野の屋敷まで連れて行った。
部屋を出て行こうとする大庭だったが、
その屋敷に務めている香絵が来て
暫く留まるよう勧める。
しかし大庭の気持ちは急くばかり。
そこへ新十郎が来て,大庭を連れ出してしまう。
医者を呼びに行ったものの,
誰も来てくれないとぼやきながら
半次がもとの長屋へ戻って来た。
ちょうどそこで大庭に出くわした半次は,
咄嗟に短刀を抜いて襲いかかる。
が,新十郎に刃物を奪われ,張り倒される。
大庭が親分の源吉を解剖したことを、しきりに責め立てる半次。
新十郎は、長吉を診てもらうのが大事だと言い,
新十郎 「どこへ行っても疱瘡を怖がる腰抜け医者ばかりで,
誰一人,病人を診に来てくれる奴はいやしないんだ」
と言い,半次を叱りつける。
長吉は高熱で肺炎を起こしていた。
間もなく、香絵が長屋へ薬箱を持って来る。
途中で中井の家に寄ったが,まだ戻っていないという。
牛痘の種がないと疱瘡は防ぎようがない。
牛痘は,抜け荷を扱う浦賀宿の丁字屋へ届くことになっていた。
受け取りに行った中井に万一のことがあったら大変だと,
新十郎は浦賀へ向かう。
旅籠「丁字屋」の主人から牛痘を受け取った中井は,
その旅籠から出て来た天海達に浜辺で斬られ,牛痘を奪われる。
夜分,大庭は,疱瘡の患者の手当てをして
長吉のいる長屋へ戻って来たが,戸口は開けず,
「ばい菌が家に入って子供にうつってはいけない(から)」と,
中で長吉の看病をしている香絵に声をかける。
そこには半次もいた。
香絵に,子供の熱を見て脈をとるよう指示する大庭。
長吉の熱は下がり,脈は平常に戻っていた。
幼い子供の命をとりとめた大庭は,
死んだ源吉との約束を果たせたと言って安堵する。
源吉は労咳(ローガイ※結核)で,
獄門にならなくても,長い命ではなかった。
大庭は,源吉が死んだ経緯を全て打ち明ける。
(大庭の回想)
小田原の旅籠で役人に追われた源吉は,
大庭の部屋へ侵入し,血を吐いた。
大庭は人体解剖図を源吉に見せ,病のことを教えた。
源吉は,子供に病気がうつっているかもしれないため,
江戸へ帰ったら診てやって欲しいと大庭に頼む。
更に源吉は,死んだあと自分の身体を腑わけ(解剖)して
医学の勉強の参考にしても構わないと意思を告げ,
少しでも人のためになるなら本望だと言って死んだ。
(回想了)
源吉を解剖した大庭は,
その身体から病気の実際をみることができたと感謝する一方,
人の道に反した残忍な行為をしたのかもしれない…と省みて言う。
と,急に戸口を開けて半次が中から飛び出して来た。
大庭は「外に出てきては駄目だ」と言って,すぐ戸口を閉める。
大庭の前で土下座して謝る半次は,
自分に何かできることはないかと協力を申し出る。
大庭 「許してくれるのか,勘弁してくれ」←(T_T)イイ人。
一方、浦賀の浜辺に着いた新十郎は,
そこで「中井宗榮」との名が記された荷物と,その斬死体を発見する。
旅籠の丁字屋へ行き,「大庭正吾」と名乗って中井のことを聞いた新十郎は,
主人が嘘をついていることを見抜く。
その頃,梅津は,入手した牛痘を証拠に大目付を動かせば,
裏で外国と密貿易をしていた水野の失脚は間違いないと喜んでいた。
屋敷には天海達浪人一味が酒を飲んでくつろいでいた。
天海は,「丁字屋を寝返らせるのに骨を折った」と梅津に話し,
その場にいた一角にも酒を飲むよう勧めるが,
一角は天海を睨みつけ,黙っていた。
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No title
頭の回転ニブかったね。見直してもまだ直し足りない感じ。
No title
後半になるに従ってバテて省略傾向になるかな…と,自分で予想していたけど,
逆に文字数オーバーで省略しなくちゃならなくなるとは…(-_-;)。
頭の回転がニブくなってきて簡単にまとめられなくなっているのかな。
かなりしんどい…けど,書いてると苦し楽しの両方だったりするから不思議。
逆に文字数オーバーで省略しなくちゃならなくなるとは…(-_-;)。
頭の回転がニブくなってきて簡単にまとめられなくなっているのかな。
かなりしんどい…けど,書いてると苦し楽しの両方だったりするから不思議。